今では有名な「引き寄せの法則」。書評になりますが、アマゾンでのレビューも好意的なものが多かったので試しに購入してみました。読んだのは「引き寄せの法則 (講談社文庫)」です。
引き寄せの法則とは?
端的に言うと、自分の環境は自らが引き寄せているものである。ポジティブな思考や言動など良いエネルギーは幸せなものとして帰ってきて、反対にネガティブな悪いものも同じ理屈で、現在の自分が不幸なのは自分の言葉や思考、行動などに問題がある、といったところです。本を読んで筆者はこのように解釈しましたが、この記事でのテーマは当該法則は欠陥だらけという部分に絞ります。
なお、私はこの本を半分くらいまでは真面目に読んでいましたが、それ以降は飛ばしながら読みました。その理由も合わせて解説します。
重大な欠陥
子供のこと
まず一番気になったというか、何故触れていないのか理解できないのが”子供に関すること”です。(もしかしたら触れているかもしれませんが、恐らくこの理論で根本的に言及すべき部分なので、それ以外にページを費やしていること自体に問題があると思います。)
周知の通り、幼少期に親と死別したり虐待を受けたりして不幸になった子供はたくさんいます。それで自分ではどうしようも無く、その先の人生が苦しいものになっている人は数えきれないほどいるでしょう。しかしこの理論に依れば、その子供達もそれを自ら引き寄せた、ということになります。それはナンセンスだと思いませんか?子供がその不幸を引き寄せるためのエネルギーをどうやって生み出すのでしょうか。ある程度の判断能力が得られる年齢ならまだ分かりますが、赤子はもちろん、毎日明るく楽しく過ごしていたのに突然事故で親が死んで人生が一変した人がいることは想像に難くありません。
思ったのは、この本の著者やこの理論を推奨する人は児童養護施設や障害・病気で苦しんでいる人の前でも同じことが言えるのだろうか、ということです。既述のような実体験がある私は、読んでいて不快でした。
余談ですが「強迫性障害」という精神疾患があります。これは自分の意思とは無関係に多くの物事を悪い方向に考えてしまうのが一つの特徴です。この人たちに「良いことを考えろ」とするのは酷な話でしょう。
震災や戦争でもこの理論が通用する?
この本で終始していたのは身近な例、日常生活に対することにページを割いていました。先の大震災や絶えない戦争で多くの人が犠牲になっていますが、その人たちも自分に原因があるのでしょうか?確かに因果応報という言葉がありますが、あれだけの人数で自己に責任があるとするのはナンセンスな話でしょう。
前項と同様に、はっきり言って個人の力ではどうしようも無いことは必ず存在します。
経営者にはなれない
経営者に限ったことでも無いですが、最善と最悪を常に想定することは生きる上でかなり重要です。ポジティブで実現したいことを強く願い信じる、みないな思考を推奨していますが、それで人生が上手くいくと考えるのは思慮が足りないと言わざるを得ません。
有能なら経営者なら最も良い結果を出そうと信じ、行動はします。しかし最悪のケースを想定してその対策を練る、さらにそこから先を考えるのは当然です。
要は本当の不幸を知らない人の理論
この本やこの理論を推奨する人たちは、現実が見えていないというか、本当の不幸を知らない人が作ったんだろうと思います。自分では何ともならない不幸は必ず存在しますし、自分次第で幸せになれる、というのは幻想です。
確かに前向きに生きるのは意味があるとは思いますが、この理論を盲信して最悪を考えない、知らないのは愚者に他なりません。この本は自分で対処出来る環境にある人だけが読む価値のある本でしょう。世の中を俯瞰出来る人にはオススメ出来ません。